第35章 毒
家康は言いかけた言葉を飲み込み、呆然としながらさえりの背中を見送った。
「俺、なに言おうとして……」
さっき、さえりに聞こうとしたのは。
――何で、俺じゃ駄目だったの?
危うく、言葉にしてしまう所だった。今さら聞いて何になるのか。さえりを困らせてしまうだけだ。迷惑がられてもし距離を置かれてしまったら。いや、むしろ距離を置いた方が――
「家康?」
「うわっ!」
急に声をかけられ、家康は驚いて顔を上げた。いつの間にか戻ってきたさえりが心配そうに覗き込んでいる。
「ボーッとしてたけど大丈夫? 体調悪いの?」
「失礼だね。ちょっと考え事してただけだよ」
家康は少し怒った様に見せながら、裾を叩いて立ち上がった。
ドキドキと高鳴る自分の心臓に腹が立つ。本当は心配してくれて嬉しかったのだけれど。
「邪魔者は去るよ」
目の端に、光秀がこちらへ来るのが見えた。
「え? あっ、家康……」
二人が目の前でいちゃつくのなんて見てられなかった。クルリと背を向け、その場を後にした。