第35章 毒
ある日、安土城広間では軍議が行われていた。
「お言葉ですが信長様。今度の戦、さえりを連れていくほどの戦ではないかと」
珍しく光秀が信長に異を唱えていた。信長がさえりを験担ぎとして戦に連れていくと言ったからだ。光秀はさえりを危険な場所に連れていきたくなかった。
しん、と広間に沈黙が流れる。
「さえりは後方で救護をするんでしょ? ならご心配なく。俺が守りますよ」
家康が口を挟む。さえりが同行するとなれば、後方支援の家康部隊に所属するだろう事はわかっていた。光秀は正直、それも気に入らなかった。
「家康。しっかり守れ」
「はっ」
信長は満足し、軍議を解散した。光秀は思わず家康を睨む。
「家康。どういうつもりだ」
「信長様の決定は覆らない。なら俺が守ると明確にしただけですよ」
確かに、一度言い出した信長の意見を変えることは容易ではない。だからといって簡単に頷ける訳もなく、何とか説得を試みようとしていたのだ。
しかし、もう軍議は終わり、さえりが戦場へ行くことは決まってしまった。
「……そうか。さえりを頼む」
決まってしまった以上、今度はどう安全を確保するかが重要になってくる。光秀は仕方なく、家康に託す事にした。
「もちろんです」
その言葉を聞くや否や、光秀は家康を一瞥し、広間を後にした。