第34章 月見酒
帰ろうと立ち上がりかけた光秀の肩に、政宗が手をのせてきた。
「秀吉『も』信用してるって、後は誰の事だ?」
信長様とお前達の事だ、と本音は伝えず、光秀は答えをはぐらかす。
「さあな」
「光秀。お前、少し変わったな。なんと言うか、柔らかくなった」
政宗の言葉に光秀は眉をひそめざるをえなかった。多少自覚はしていたものの、どのくら変わったかと確認をする。
「切れ味が鈍っているか?」
「いや、武将としての鋭さは変わらねぇ。むしろ研ぎ澄まされているくらいだ」
では何が? と疑問に思う。
「常に研がれていた刀が鞘を見つけた感じかな。良いと思うぞ、俺は。鞘が無いと自分を傷つけるからな」
なるほど、上手いことを言う。妙に感心した光秀は、肩に乗ったままの政宗の手をパシッと軽くはたいた。
「重いんだが」
政宗は少し驚いたような表情をした後、悪戯っぽい笑みを浮かべて、今度は光秀の背中をバンと叩いた。大事にしろよ、と言い残し去っていく。
「言われなくとも」
誰を、とは一言も言わなかったが十中八九さえりの事だ。
叩かれた背中がじんじんと痛い。あの馬鹿は力加減と言うものを知らないのか。それともわざとか。ため息をつきながら立ち上がった。