第34章 月見酒
さえりと光秀が恋仲宣言をして数十日後。
安土城広間での軍議はいつものごとく紛糾していた。
「またお前は! 一人で好き勝手しやがって!」
今回の戦では味方を危険にさらすことは無かったものの、光秀の単独行動に秀吉はイラついていた。
「合理的だっただろう?」
「そういう事じゃない!」
一人で抱え込む光秀に、秀吉は辟易していた。もっと周りを信用しろといつも口を酸っぱくして伝えているつもりだ。
「俺はお前の事も信用している」
「だいたいお前は……え?」
いつもの調子で小言を続けようとしていた秀吉が、予想外の返事に言葉を詰まらせる。
「だから、これからも宜しく頼む」
「お、おう……。頼むってお前、今後も好き勝手するという宣言じゃないだろうな?」
「ばれてしまったか」
「お前な……!」
いつものやり取りの筈なのに、何か、いつもと違う。よくわからない違和感に秀吉が困惑する最中、突然広間の襖が開いた。
「失礼します。お茶をお持ちしました」
さえりが顔を覗かせ、にこやかにお茶を差し出す。さっきまでのギスギスした空気が嘘のように、武将の誰もが笑顔になる。
「軍議、頑張って下さいね」
さえりは直ぐに下がっていった。毒気を抜かれた武将達は必要最低限の打ち合わせをした後、軍議は解散した。