第33章 あなたがこの世に生を受けた日 <彼目線>
御殿に着いた時には、日付が変わる直前だった。
「光秀さん。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。遅くなって悪かったな」
「いえ、誕生日の内に伝えられて良かったです」
礼代わりに、祝いを述べて微笑むさえりの頭を撫でて、額に口づける。
二人だけのささやかな宴の後、さえりが思い出したかの様に手をたたいた。
「そうだ! 光秀さんに見せたいものがあるんです。ちょっと待ってて下さいね」
さえりは隣の部屋へ行き、なにやらごそごそと準備していた。
(俺を驚かすと言っていた贈り物かな? 楽しみだ)
柄にもなくウキウキしてしまう自分に少し驚く。
「じゃん! 私がいた時代で着ていた『洋服』です! どうです、似合ってますか?」
(ようふく?)
珍妙な着物を身に付けたさえりが立っていた。膝下が露出しており、五百年後はこんなに肌を晒すのかと驚く。
しかし自分の為に作ってくれた事が嬉しくて。
クルリと回って見せるさえりが可愛くて。
「可愛いな……」
ポツリと本音がこぼれた。しかしその声は小さすぎてさえりの耳には届いていないようだった。
(俺としたことが)
「光秀さん?」
「よく似合っている。もっとよく見せろ」
近寄って洋服を観察する。さえりは恥ずかしいのか、顔を赤らめていた。この可愛らしい『贈り物』を中身ごと頂戴する事にする。
(上と下で分かれているのか。この紐を解けば下は脱がせそうだ。上は一体……)
「これはどうなっている?」
「これはボタンと言って、この穴に通して留めるんです」
「ほう、そうか」
(こうか?)
ぷつっ、ぷつっ、とぼたんとやらを外していく。
「みっ、光秀さん! 何してるんですかっ」
(あっていたか。それにしても相変わらず思った通りのいい反応をする)
「贈り物の包みを解いているだけだが?」
意地悪く言いながら、口元が緩んで仕方ない。今宵はどうやって甘く啼かせようか。お前をとろとろにとかしてやろう――
その夜、空が白むまで、さえりを腕の中から離すことは無かった。