第33章 あなたがこの世に生を受けた日 <彼目線>
調査の結果は、残念ながら黒だった。
(やはり黒か……仕方ない。帰るのが遅れてしまうな。すまない、さえり)
木々が生い茂る雑木林のなかで、隙間から溢れる微かな月の光を眺めてため息をつく。
もうすぐここを、密書を携えた使者が通るはずだ。
――ガサガサッ
ふいに暗闇から男が現れ、ピタリと立ち止まった。
「ごきげんよう。いい夜だな」
声をかけると、男は踵を返し、脱兎のごとく駆け出した。すぐに追いかけ、その首根っこを掴み、バンッと近くの木に叩きつける。
「ぐ……っ」
「折角待ちわびていたのに、逃げるとはいただけないな」
叩きつけられた痛みで、男は逃げる気が失せたようだった。
「貴殿に『お願い』がある。密書を見せて頂きたい」
「密書など、持っておりません」
男は震える声で告げた。
「こんな時間に、こんな場所を通っているのにか? 何もないというのであれば、改めさせてもらう」
全身を調べると密書は、男の……使者の上着の襟首辺りに隠すように縫い付けられていた。それを丁寧に取り出し、広げる。
「お願いです、返して下さい。それがないと命が……」
使者の懇願を無視し、密書にピッと幾つか線を書き足していく。そしてそれを折り畳むと、元あった使者の襟首に丁寧に戻した。
「何を……?」
「いいか。間違えることなくそれを渡せ。相手が激怒する事間違いなしだ」
(要求する対価が不当になるよう幾つか数値を変えておいた。相手の反応が見られないのが残念だ)
「そんな……!」
薄く笑みを作ると、それを見た使者は青ざめていた。