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きつねづき ~番外編~

第33章 あなたがこの世に生を受けた日 <彼目線>


翌日。さえりが出掛けた後、光秀は山積みになっている文に目を通していた。ふと、一通の文に目が止まる。

(これは……調査の必要があるな)

謀反の兆しを記した文を懐に仕舞い、九兵衛を呼ぶ。

「九兵衛。暫く出掛ける。留守を頼むぞ」

「……今から行かれるのですか?」

「そうだが。何かあるのか」

「いえ、かしこまりました。急ぎ支度致します」

九兵衛は頭を下げると足早に部屋を出ていった。

(さえりの事か)

九兵衛に心配されずとも、さえりの事は気になっていた。しかし謀反の芽かも知れない事象を放っておくわけにはいかない。

(調査だけなら誕生日迄には戻れる。対処迄となると厳しいが……まあ、数日ずれるぐらいなら構わないだろう)

さえりのガッカリした顔が脳裏に浮かぶが、元々、あまり興味が無かった事もあり、仕方がないと気持ちを切り替えた。

準備を終え玄関へ向かうと、丁度帰ってきたのだろう、大荷物を抱えたさえりが、九兵衛に詰めよっている姿が見えた。

「九兵衛さん、何かあったんですか?」

「さえり様。実は……」

「なに、少しばかり用事が出来てしまってな。暫く屋敷を空ける事になった」

九兵衛の言葉を遮り、さえりに心配させないよう、出来るだけ簡素に述べる。

「え……っ」

それでも何か感じ取ったようで、さえりは心配で仕方ないという表情を浮かべた。

「そんな顔をするな。大丈夫だ、数日で帰ってくる」

(問題なければな。白であることを願おう)

さえりの頭をひと撫でする。安心させるように、ゆっくりと。

「光秀さん、気をつけて」

「ああ、行ってくる」

さえりがあまりに心配そうな表情をするから、思わずその可愛らしい唇を掠め取った。

「なっ……」

「ではな。良い子で待っていろ」

驚きと共に頬を染めたさえりの姿に満足する。

(その表情のほうがずっといい)

ふっと笑った後、背を向けヒラヒラと手を振り屋敷を後にした。

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