第33章 あなたがこの世に生を受けた日 <彼目線>
厩からの帰り道、隣でさえりがうんうんと悩みながら歩いていた。あれだけ啖呵を切ったのだ、存分に悩む事だろう。今、さえりの頭の中は俺の事で一杯だ。それはとても喜ばしい。
(だが……)
「さえり。そんなに上の空だと転ぶぞ」
「そんな事……あっ!」
忠告した直後、こちらを見て反論しかけたさえりが、石につまずき転びそうになるのを急いで抱き止める。
「まったくお前は言ったそばから……よくもまぁ、あんな小石につまずけるな」
「すみません……」
(やれやれ……今は隣に居るのだから、俺の事だけを見てもらうとしよう)
さえりを横抱きにして抱き上げる。
「光秀さん! 降ろして下さい! 自分で歩けますから!」
予想通りの反応が帰ってくる。落とさないよう注意しながら、わざと重心をずらし体勢を崩させると、さえりは慌てて首にぎゅっと抱きついてきた。勿論これも予想通りだ。
「断る。また転ばれては困るからな。これならお前も思う存分考え事が出来るだろう」
「無理です……! 逆に無理!」
「ほう、何故」
理由など聞かずともわかっている。
(俺の事が好きで好きで堪らないという顔だ)
頬を赤らめたさえりが可愛くて、額に唇を寄せた。
「意地悪」
「今更だな」
そのままさえりを降ろす事なく、御殿へと連れて帰った。