第33章 あなたがこの世に生を受けた日 <彼目線>
馬を引きながら馬上のさえりを見やる。
「別にないな。俺はお前が傍に居てくれたらそれでいい」
包み隠さず本音を伝えると、さえりの頬が緩みかけて、キュッと引き締まった。
「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、それとは別にです!」
「やれやれ、手厳しい事だな」
(そこまで言うのなら……)
ならばとひとつ、策を練る。
「では、誕生日迄に馬に乗れるようになれ」
「う……頑張りますけど、それは私の努力で光秀さんの贈り物にはならないですよね」
「そうか? ならお前が俺の事だけを考えながら俺だけの為に、何か俺が驚くような事をしてみせてくれ。何でも良い。俺を驚かせた暁には何でもお前の言うことを1つ聞いてやろう」
「本当ですか!?」
さえりの目が輝く様を見逃さなかった。獲物が網にかかる瞬間のような手応えを得て、思わず口元に笑みが浮かぶ。
「絶対驚かせてみせますから!」
馬上でさえりが高らかに宣言する。
「楽しみにしている」
(これなら、お前が一体何をしてくれるのか、楽しみに出来る)
生まれて初めて、少し誕生日が待ち遠しく感じた。