第32章 あなたがこの世に生を受けた日 <後編>
光秀の言う『贈り物』が自分自身を指していると気づいたさえりは恥ずかくしなり、カーッと顔が熱くなった。
「贈り物って、もしかして」
「九兵衛もそう言っていたしな」
「それはっ」
確かに九兵衛はそう言っていたけれど、ちょっとニュアンスが違う気がする。そう、思うのだけれど。
「お前は違うのか?」
「……違い、ません」
唇を指でふに、と押されてついそう答えてしまう。
「俺の為に、俺だけの為に、この洋服とやらを作ってくれたのだろう」
「そうです」
「俺の事だけを考えて」
「はい」
あなたの為に、あなただけの為に、この洋服を作った。一針一針丁寧に、あなたの事だけを考えながら。その想いを込めて、光秀を見つめる。
それに答えるかのように、光秀も見つめ返す。光秀の手が頬に触れ、ゆるゆると撫でられる。
「ならこの贈り物は、俺が余すところなく頂いて良いな?」
低く甘い命令が耳に注ぎ込まれ、触れられている頬から徐々に熱が伝わる。身体中が心臓になったかのようにトクトクと脈打つ。光秀に視線を絡み取られ、逸らせなくなる。
「は……い、貰って、下さい……」
気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。
「良い子だ」
さえりの後頭部に光秀の手が添えられ、噛みつくように口づけられる。壁に背中がトンと当たり、押し付けられて身動きが取れない。
「ん……ふっ……んぅ」
強引に舌をねじ込まれ、呼吸さえも奪われる。息苦しくて涙が滲むけれど、激しい口づけに強く求められている事を感じて嬉しくなった。