第32章 あなたがこの世に生を受けた日 <後編>
光秀とさえりが御殿に着いた時には、日付が変わる直前だった。
「光秀さん。お誕生日おめでとうございます」
「ありがとう。遅くなって悪かったな」
「いえ、誕生日の内に伝えられて良かったです」
光秀がお礼をするかのように、微笑むさえりの頭を撫で、額にそっと口づけた。
酒が注がれた盃を傾け、ささやかなお祝いをする。既に日付は変わり、夜は深く辺りはシンと静まりかえるが二人には関係なかった。そこだけ温かな時間が流れていく。
「そうだ! 光秀さんに見せたいものがあるんです。ちょっと待ってて下さいね」
さえりはいそいそと隣の部屋へ行き、この日の為に作った物に身を包む。
「じゃん! 私がいた時代で着ていた『洋服』です! どうです、似合ってますか?」
白いブラウスに花柄のスカート。ブラウスには布を小さく纏め固めてつくったボタンを付け現代風に。タイトスカートも良かったけれど、留め具がないから巻きスカートにした。再現性を高くするために色んな工夫を施した。
そんな丹精込めて作った洋服を着たさえりは、光秀の前でクルリと回って見せた。
「可愛いな……」
光秀がポツリと呟く。しかしその声は小さすぎてさえりの耳には届いていなかった。
「光秀さん?」
「よく似合っている。もっとよく見せろ」
言葉通り光秀が近寄ってきて、まじまじと不思議そうに見つめる。距離が近くて、思わずさえりはドキッとした。
「これはどうなっている?」
光秀がブラウスのボタンを指差した。
「これはボタンと言って、この穴に通して留めるんです」
「ほう、そうか」
ぷつっ、ぷつっ、とブラウスのボタンが外されていく。
「みっ、光秀さん! 何してるんですかっ」
「贈り物の包みを解いているだけだが?」
光秀が悪戯っぽく笑った。