第31章 あなたがこの世に生を受けた日 <前編>
翌日。さえりは布を買いに市へと来ていた。店先で色々な反物を手に取り、自分がイメージする物と合う生地を探していく。
「これ可愛い。小さく纏めて固めれば……うん、使えそう!」
昨日光秀に話した現代での暮らし。光秀は頷いてくれていたが、たどたどしい説明では殆ど伝わらなかっただろうと思う。
それならば、出来る範囲で作って見せればいい。手に入るものは限られるだろうから、現代風の物になってしまうが、少しでも雰囲気を味わって欲しい。光秀は喜んでくれるだろうか?
さえりは沢山買った反物を抱きしめるかのように、大切に胸に抱え込んだ。必要な物は全て揃った。後は光秀の誕生日に間に合うように作るだけだ。
急いで帰る途中、ふと、先日つまずいた小石が目に止まった。
「そうだ、これも……」
さえりは小石を拾い上げ、大事にしまいこんだ。