• テキストサイズ

きつねづき ~番外編~

第31章 あなたがこの世に生を受けた日 <前編>


厩からの帰り道、さえりはうんうんと悩みながら歩いていた。結局全てを秘密にしなかっただけで、元の悩みに戻った気がする。双六で言えば振り出しに戻る、だ。今更ながら光秀の手の上で踊らされている感が満載だ。

「さえり。そんなに上の空だと転ぶぞ」

「そんな事……あっ!」

光秀に忠告され、反論しようと口を開いた途端、視界がグラリと反転し、地面が近づいた。

転ぶ……!

そう思いぎゅっと目をつむったが、予想していた痛みはなく、代わりに温もりに包まれた。

「まったくお前は言ったそばから……よくもまぁ、あんな小石につまずけるな」

「すみません……」

さえりを抱き止めた光秀の視線の先には、丸くて平べったい小石があった。あれにつまずいたのかとさえり自身も驚く。流石にどんくさいなと思った瞬間、身体がフワリと宙に浮いた。

「光秀さん! 降ろして下さい! 自分で歩けますから!」

さえりは光秀に横抱きにされていた。バランスを崩しかけて思わず光秀の首にぎゅっと抱きつく。

「断る。また転ばれては困るからな。これならお前も思う存分考え事が出来るだろう」

「無理です……! 逆に無理!」

「ほう、何故」

そんなの、ドキドキするからに決まってる。大通りだし恥ずかしいし顔近いし……さえりは顔が火照っていくのに気づきながら、そのまま光秀を軽く睨んだ。光秀は分かっているという表情で、さえりの額に唇を寄せた。

「意地悪」

「今更だな」

そのままさえりは降ろされる事なく、御殿へと連れて行かれた。

/ 254ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp