第30章 海
さえりは花火を1本、光秀に差し出した。
「2本ともお前が楽しんでもいいのだぞ」
「いえ、一緒にしたいです」
そうか、と言いながら光秀が花火を受け取る。二人はその場にしゃがみ、線香花火に火をつけた。
パチパチと音をたて、火の花が咲く。
「成る程、これは趣深いな」
線香花火は、蕾、牡丹、松葉、柳、散り菊へと徐々に姿を変える。
派手さは無いが、心に染み入る。
淡い灯りが2人の姿を照らし出し、やがて火球がポタリと落ちて消えた。
「……」
暫くは花火の余韻に浸る。
「……さて、名残惜しいが帰るか。可愛いお前を腕の中に抱く時間が減るのは困る」
光秀が立ち上がり、さえりの手を引いて立ち上がらせてくれる。
「は、はい」
花火と共に楽しい1日が終わってしまったという切なさは、同じ思いでいてくれることの嬉さに変わる。そしてその後に待っているだろう甘い夜を想像させられた。
さえりと光秀は手を繋ぎ、海を背にして歩きだした。