第30章 海
光秀の長い指がさえりの髪を撫でながら耳にかけ、そのまま耳の形を優しくなぞられる。つーっと首筋をゆっくりと伝い降りて行き、鎖骨をゆるりと撫でられた。
「ん……はぁ……あっ……」
光秀の唇が恋しくて、いつの間にか首に腕を回して自らも口づけを貪る。止められなくて、何度も何度も互いに求めあう。やがて酸素を求めてゆっくりと唇が離れた。二人の唇は擦れあった事を示すように赤みを帯びていた。
ただ黙って二人は見つめあう。切なさを宿した光秀の瞳に魅入られ、目が離せない。
「光秀、さ……」
光秀様、といつもの様に呼びかけたとき。
――バサバサッ
海鳥が二人のすぐ横をすり抜けた。
「きゃ……」
「さえり!」
咄嗟に光秀がさえりを庇う。海鳥は側に置いてあった弁当を盗み、空高く舞い上がっていった。
「……」
二人は呆気にとられ海鳥を視線で追った。
「……まさか鳥に邪魔されるとはな。もしや秀吉の化身か?」
光秀がわざとらしく顔をしかめて言うものだから、さえりは思わず笑ってしまった。
「秀吉さんが邪魔した挙げ句、お弁当を盗んで行くんですか? そんなことしないと思いますけど」
「ああ、俺もそう思う」
二人は抱きあったまま、くすくすと笑い合う。
「続きは帰ってからだな」
「……はい」
少し乱れたさえりの衿元を光秀が直してくれた。