第30章 海
二人は木陰に腰を降ろし、持ってきたおむすびを頬張る。外で一緒に食べるおむすびの味は格別だ。
「美味しいですね」
頬を綻ばせながら光秀を見上げると、光秀も笑顔で返してくれた。
「本当にお前は美味そうに食う。そんなに腹が減っていたのか? 落ち着いて食ったらどうだ。……米粒が付いているぞ」
「えっ、何処ですか」
慌てて食べたつもりはなかったのだけれど。恥ずかしく思いながら手を口元へと持っていこうとすると、触れる直前で何故か手首を掴まれた。
――ちゅっ
軽く音をたてて、光秀がさえりの口元をついばむ。
「美味いな」
「……」
あまりに突然の事で、一瞬何が起こったのか分からなかった。舌なめずりをする光秀を呆然と見つめる。
「じ、自分で取れます……! そもそも、本当に付いてたんですか!?」
「ああ、付いていたぞ」
光秀がニヤニヤと笑う。
「ほら、ここにも。もっと味わわせろ」
掴んだままの手首を軽く引かれ、腰を抱き寄せられ、今度は唇をふさがれた。
「んっ」
幾度も角度を変え、口づけられる。光秀の舌に唇をなぞられ、ゾクリと背筋に甘い痺れが走る。
「み、つひで、さん、ここ、外……!」
「ああ」
口づけの合間に抗議をするが、止まらない。
「誰も見ていない。確認してみるか」
唇が離れる気配がしてさえりはゆっくりと瞼を開ける。するとそこには目を閉じた光秀のどアップの顔が飛び込んできた。切れ長の目に長い下まつ毛。整った顔立ち。
「……!」
格好よすぎて心臓に悪い。さえりは反射的にぎゅっと目を閉じた。ふふっと笑う気配がしたかと思うと、また口づけられた。
「どうだ?」
「わかりませ……んっ……ぁ」
光秀の舌が少し強引にねじ込まれる。さえりを味わうかのように、舌をじっとりとねぶられる。
「う……ん、ぁ……っ……」
おむすびを食べた後の塩味は、光秀の性で甘さを増していく。息をするのも忘れて、段々と光秀との口づけに酔いしれていった。