第30章 海
翌日、さえりは昨日の光秀との会話を思い出しながら安土城の廊下を歩いていた。
「花火したかったなー」
昨日は花火が無くても大丈夫だと言ったものの、懐かしさが込み上げてきていて、今無性に花火がしたい。全く存在しないのならともかく、存在するのだから尚更だ。
それに光秀にも花火を体験して貰いたい。少しなら許されるんじゃないだろうか。そんな甘い考えが頭をよぎる。
「どうやって手に入れるんだろう」
悩みながら歩いていると、ばったり秀吉に会った。
「おう、さえり。今度光秀が休みを貰えるらしいな。良かったな」
「うん! その日は海に行こうと思ってるの」
「へぇ、いいな」
にこやかに話していた秀吉は急に真面目な顔をする。
「海賊やら山賊やら出るかもしれないから気をつけて行けよ」
「もう、脅かさないで」
「道中気を付けろってこった。まあ光秀が一緒なら心配ないけどな。違う意味で心配だけどな。光秀に泣かされたらすぐに報告するように。俺がとっちめてやるからな」
秀吉は大袈裟にグッと拳を目の前で握りしめる。そのおどけた仕草にさえりは思わず、ふふっと笑った。
「誰が誰をとっちめるって?」
「光秀さん!」
いつの間にか、秀吉の後ろに光秀が立っていた。
「光秀、信長様に呼ばれてるんじゃないのか」
「ああ、これから行く所だ。秀吉、俺の可愛いさえりを泣かすなよ」
「お前が言うな!」
ははは、と笑いながら光秀が去って行った。まったく、と秀吉がぼやく。光秀の姿が消えた隙にさえりは秀吉に質問した。
「ねぇ、秀吉さん。花火って何処で手に入るか知ってる?」
「花火……? あの火薬を使った娯楽か? さあな、珍品を扱う商人なら扱ってるかもしれないが……いつ何処に現れるかはわからないな」