第28章 尾行
光秀の御殿で、さえりと光秀は久しぶりにのんびりとした時間を過ごしていた。
「なかなか真相は珍妙にして滑稽だったな」
大通りを息を切らせて走ってきた後、蘭丸を見てへたりこんださえりを見て、光秀は全てを悟ったようだった。
「まさか俺の浮気相手が蘭丸だったとはな」
光秀はずっと可笑しそうに笑っている。
「大変お騒がせしました……」
さえりは申し訳なく思いながら頭を下げた。
事情を知った千与は平謝りだった。しかしたまにしか安土を訪れない千与が蘭丸を知らないのは無理もなかった。わざとではない為、光秀、さえり、蘭丸の3人は千与の勘違いを快く許した。
蘭丸に至っては、女性に間違われた事より可愛いと言われた事を喜んでいたようだが。
さえりは光秀の傍へと寄り添った。
「噂を流したのは、光秀さんですよね? 私が尾行しやすいように」
光秀は何も言わず微笑んだ。肯定も否定もされなかったが、さえりはその表情から肯定と捉えた。
「やりやすかったですけど、光秀さんの評価が落ちたままなのは嫌なので……」
さえりは光秀の肩に頭を預ける。
「明日から町の人達一人一人に真相を話して、誤解を解いてもらいますね」
光秀がさえりの髪を撫でながら頬を寄せ、頭の天辺に口づけた。
「わざわざそんなことをしなくとも、噂をなくす良い方法があるぞ」
「えっ」
「お前が本気で責任を感じているのならな」
さえりは顔を上げて光秀を見た。光秀は悪巧みをする時の顔をしている。
何故だろう、嫌な予感しかしない……!
そうは言っても自分が招いた事態。不安を抱えながらも、さえりは光秀の案に耳を傾けた。