第28章 尾行
さえりは光秀を追いかけるため、小走りで城下へ向かっていた。すると城門から信長と三成が歩いて来るのが見えた。
「信長様、三成くん、おかえりなさい」
「ただいま帰りました。……さえり様、光秀様の噂を小耳に挟んだのですが」
三成が少し言いにくそうに、噂の事を口にした。
「三成くんの耳にも入ったんだね。でもあくまで噂だから! ……あっそうだ、尾行のコツってあるかな?」
急で突拍子もないさえりの質問に、三成が真面目に頭を捻る。
「尾行ですか? 私は苦手なので……」
「三成くん、頭脳派だもんね。信長様はどうですか?」
「そんなもの聞いてどうする。どうせ光秀は気付いているのだろう? なら堂々として諦めない事だ」
尾行のコツを聞いただけなのに、噂と今の会話で信長は多くを理解したようだ。さえりは苦笑した。
「そうですね。ありがとうございます」
さえりは手を振って二人と別れた。三成は去っていくさえりを心配そうに見つめた。
「大丈夫でしょうか」
「問題ない。あやつら自身が解決する事だ」
信長は羽織を翻し城へと戻っていった。
さえりが城下へ行くと、噂を聞いた町の人達が次々に気遣ってくれた。いつでも相談にのると言ってくれる人や、光秀の目撃情報を教えてくれる人もいた。さえりはその一人一人に丁寧にお礼を伝えた。
目撃情報に千与が言っていたような人物は居なかった。しかし情報が手に入る、というのはとても動きやすい。
「まさか、この為に噂を流したのかな……」
目的を早期に達成する為なら手段を選ばない。光秀の常套手段だ。例えそれが自分の評価を落とす事になろうとも。
こんな事で、光秀の偉大さを痛感することになろうとは。
「ってそんな場合じゃ」
さえりはブルブルと首を横に降った。偉大さを痛感している場合ではない。仕事ならまだしも、自分のせいで光秀の評価が落ちることは本意ではない。
早く解決しろという意図もあるのか。尻を叩かれたような気分になったさえりは、光秀の目撃情報を元に、目的地へと駆け出した。