第28章 尾行
家康は、御殿へ帰るため城下を歩いていた。すると少し先に、見覚えのある後ろ姿が物陰から何かを覗いているのが見えた。思わず声をかける。
「ねえ、何してるの?」
「家康!?」
声をかけられて驚いたさえりが肩をビクつかせながら振り向く。
「お、驚かさないで」
「大袈裟。で、なんなの」
「尾行を……」
「は?」
さっきまでさえりが見ていた方へ視線をやると、光秀と政宗が歩いているのが見えた。
「ふーん、何でまたそんな酔狂な事を。すぐにバレそうだけど」
「バレそうって言うか、光秀さんは知ってるの」
「は?? 何それ」
「色々あって……」
さえりはもごもごと口ごもる。家康はため息をついた。
「はあ、馬鹿じゃないの」
「だよね……」
家康の言葉にさえりがガックリと項垂れる。
「そうじゃなくて。折角尾行するならもうちょっと上手くやりなよ。袖、見えてた」
「えっ? あ……」
さえりが慌てて袖を掴んで隠した。
「教えてくれてありがとう。家康」
少し恥ずかしそうに、さえりが礼を言う。
「……どういたしまして。じゃ、頑張って」
家康はスタスタと足早にその場を去った。光秀は尾行を知っているのだから、助言する必要は無かったはずなのに。
「これじゃ、一体誰が酔狂なんだか」
あの一生懸命な姿を見たら、助言せずにはいられなかった。すぐに我にかえって立ち去ったけれど。
酔狂、お人好し、でしゃばり、天邪鬼……
家康は思い付く限りの言葉で自分に悪態をつきながら、御殿へと帰っていった。