第28章 尾行
翌日。光秀は、政宗と話しながら安土城下を歩いていた。話が途切れた所で政宗がチラリと後ろを見る。
「なぁ、あれは何だ?」
それは明らかに光秀を尾行するさえりの事を指していた。
「鬼ごっこを少しな」
光秀は笑みを浮かべながら答えた。光秀の鬼ごっこ、という表現は真に受けず、政宗が更に質問を重ねる。
「おまえ、なんかしたのか?」
「らしいな」
「らしいって……何の事かは知らねぇが、してないならしていないと、ちゃんと否定してやれば済む話じゃねぇのか」
政宗がもう一度チラリとさえりに目をやる。物陰からはさえりの頭と着物の袖が見え隠れしていた。
「可愛いだろう。あまり見てやるな」
「まったく、悪趣味な奴だな」
否定も肯定も、事実さえ明かさない光秀に対し、政宗が呆れながら肩をすくめて見せると、光秀はくくっと喉を鳴らして笑った。
光秀は愉快で仕方なかった。悪趣味、と言われたらそうなのかもしれないが、さえりの必死な尾行もどきを見るのは楽しい。
それに昨日さえりに伝えた『言葉で取り繕った所で』というのは本当の事だ。舌こそ最大の武器と自負する光秀にとってはなおのことだ。だからこそさえりには自身の目で見て確かめることを勧めた。
光秀は目を閉じて、くす、と笑う。
確かに疑われた事に対する意地悪は多少あった。しかし結果的に、さえりの気配を常に感じられる距離に居るというのは、何やら心地のよい気分にさせられていた。それもまた事実で、光秀はそんな自分も可笑しくて仕方がなかった。