第28章 尾行
光秀の御殿で二人は向かい合って座っていた。さえりは尾行をしていた理由を問われ、誤魔化すことが出来ずに素直に話していた。
「ほう、俺が浮気をしていると」
光秀がずずず、と茶をすする。
「浮気っていうか……噂の真相を確かめたかっただけで、本気で光秀さんが浮気をしているとは思ってないです……」
さえりはしどろもどろになりながらも、光秀の目を見て必死に訴える。光秀は黙って見つめ返した。
「お前に嫉妬されるのは悪くない。しかしお前に信じて貰えないのというのは寂しいものだな」
少しだけ寂しそうな表情を浮かべる光秀を見て、さえりは申し訳ない気持ちになった。
「ごめんなさ……」
「いいぞ」
「え?」
謝罪の言葉を口にしかけたその時、光秀がさえりの言葉を遮った。先程とは違い、その口許には笑みが浮かんでいる。予想外の発言と表情にさえりはキョトンとした。一体何がいいというのか。
「言葉でいくら取り繕った所で、噂が有る限りお前の不安は拭えまい。気がすむまで尾行するといい」
「えっ? いや、その、そこまで疑ってる訳では」
「なに、尾行対象の本人が許可しているんだ。気にすることはない」
何やらおかしな方向へ話が向かっている気がする。もしかして疑った事に対する仕返しなのだろうか? さえりは光秀の真意を探ろうと瞳を見つめるが全く読めない。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
こうなってしまっては光秀に口で勝てる訳がない。さえりは腹を括った。
「真相を見つけてみせます!」
「その意気だ」
何故か光秀は楽しそうだ。
妙な事になってしまった。
こんな事になるのなら、最初から本人に素直に聞いておけば良かったとさえりはしきりに後悔した。