第26章 雷
暗闇の中で、五感を使って感じろと貴方は言う。
視覚は、稲光によって。
稲光の度に切り取られていく、光秀の表情、動き全てに目を奪われる。時々光る稲光を頼りに、互いの位置を確認する。ゆっくりと距離が近づく。
光秀の手がそっとさえりの頬に触れた。そこに居ることを確認するようにゆるりと撫でられ、唇を指でなぞられる。触覚。体温が交わり始める。
「ん……っ」
光秀の唇の感触を、さえりの唇が受け止める。何度も啄むような口づけのあと、光秀の熱い舌がさえりの唇を割って侵入してくる。互いの舌先を探りあて、絡めとる。口内全てを味わい尽くすような口づけは味覚を刺激するようだ。
「あ……ぁ、光秀、様……」
口づけだけで身体中がとろけ出す。
「俺も、お前だけを感じている」
強く抱きしめられて、光秀の吐息混じりの声が耳元で囁かれた。聴覚を刺激され、身体がゾクリと震える。
光秀の唇はさえりの耳を食み、そのまま首筋を滑り降りていく。
「ふぁ……あ……んっ……」
くすぐったいような、気持ち良いような感覚の狭間でさえりは吐息を漏らす。今、目の前にあるであろう光秀の首筋に顔を埋める。
光秀の香りがする。湯上がりの石鹸の香りの中に、さえりの身体をぐずぐずに溶かすような、愛しい人の香りがする。さえりは思い切りその香りを吸い込んだ。嗅覚を満たす為に。
五感全て、光秀を感じる為に使う。
雷はまだ鳴っている。鳴っている、筈だ。
でももう気にならなかった。
稲光は光秀を映し出す光。
雷鳴は卑猥な声をかき消す音。
激しい雨は周りの雑音を消し去り、二人だけの世界へと導いてくれる。