第26章 雷
湯冷めをしないようにと、二人は部屋に入り褥の上に座る。閉められた襖の向こうからは雷と雨の音が響いており、まだ止む気配はない。
「雷が怖いか? 『わーむほーる』とやらでは無いのだろう?」
「たぶん、違うと思いますけど……」
わからない、という事が人を不安にさせる。しかし、不安がっていても状況が変わる訳でもない。
「ごめんなさい、ちょっと不安になっただけなんです。もう大丈夫ですから」
さえりはこれ以上光秀を心配させまいと、不安を振り払うように笑ってみせた。
「……」
光秀は黙って立ち上がり、部屋にある行灯の灯りを吹き消した。
「え……」
いつもなら月明かりが差し込み夜でも薄明かりがあるが、今日は真っ暗な闇に覆われる。
ピカッ!
ゴロゴロ……ドカーン!
バリバリバリバリ
「きゃっ!」
雷が何処かに落ちたようだ。
戦国時代の雷は現代のものとは比べ物にならないぐらいの大音量で耳をつんざく。さえりは思わずぎゅっと目をつむった。
「さえり。いいか、決して目をつむるな。俺だけ見ていろ」
暗闇から、愛しい人の声がする。
でも、どうやって見たらいいの?
そう思った時、また雷鳴が轟いた。
ピカッ!
稲光と共に、目の前に妖艶な笑みを浮かべた光秀の姿が浮かび上がる。
さえりは息をのんだ。それは一瞬の出来事で、だからこそ目を奪われる。
それはまるで、戦国時代のフォトグラフ。
見事に切り取られたその映像は、1枚の美しい写真としてさえりの心のアルバムに刻まれる。
「さえり、お前の不安を塗り潰してやる。五感全てを使って俺を感じろ」