第26章 雷
ピカッ!
ゴロゴロ……
湯あみの後、さえりは雷が鳴り響く暗い夜空を、不安に思いながら眺めていた。
「違う、よね……」
思わずポツリと呟く。
佐助くんからは何も聞いていない。だから、これはワームホールじゃない。もしそうなら、きっと佐助くんは情報をくれるはず。
そう思うけれど、不安は拭えない。
もし、急にワームホールが現れたら……?
平和な現代で過ごしていた時にワームホールが現れ、否応なく戦国時代へと環境を変えられた恐怖は、さえりの奥深くに刻まれていた。
この時代で命をかけられるような運命的な出逢いをしたのだから、結果的には良かったのだが。
でももし次に現れたら、今度は愛しい人との間を引き裂かれかねない。そんな運命の悪戯に翻弄されたくはない。
ピカッ!
ゴロゴロ……
ザーーー
雷だけでなく、強い雨が降り始めた。
さえりは両手を強く握りしめ、唇を引き結ぶ。
「さえり? どうした。そんな所にいては風邪をひくぞ?」
さえりの後に湯あみを済ませた光秀が、まだ少し濡れた髪を手ぬぐいで拭きながら歩み寄る。その姿は艶っぽく、大人の色気が漂っている。
「光秀さん……」
さえりは光秀の胸に手を添え寄り添った。
「少し、甘えてもいいですか?」
おずおずと背中に手を回し抱きつく。
「勿論構わないが……本当に、どうした?」
光秀の心配そうな声音とともに、優しく抱きしめられる。
雷と雨の音を聞きながら、二人は暫く抱き合っていた。