第25章 ただいま
「ちょっ……! もう! 違います!」
ますます赤くなったさえりが光秀の胸を押す。
「それは残念」
ひとまずさえりをからかって満足した光秀は素直に引き下がった。
そうこうしている間にも宴の準備は進められ、豪華な料理が並べられる。すぐに賑やかな宴が始まった。わいわいと皆で皿をつつき、酒も進む。
「光秀、邪魔して悪かったな」
「ああ、まったくだ」
ニヤニヤと笑う政宗に、光秀も口許に笑みを浮かべて応える。
「俺たちの方が驚かされた気分です」
「『さぷらいず』失敗ですね」
「サプライズは、驚かせて喜ばせる事ですよ。見事に失敗しましたけど」
家康と三成の言葉を引き継ぎ、さえりがサプライズについて説明する。
「そうか」
光秀は手にしている盃に視線を落とす。なみなみと注がれた酒には、少し素っ気ない表情の男が映っていた。
「俺の為の宴だが少し物足りないな。秀吉、『さぷらいず』で舞でも舞ってくれ。驚いてやるから」
顔を上げ、ニヤリと笑いながら秀吉を言葉で弄ぶ。
「何で俺がお前のために……」
「それは良い考えだ。秀吉、舞え」
「はっ。では信長様のために舞わせて頂きます」
秀吉が信長を正面にして舞い始める。流れるような美しい所作に皆が見入る。
光秀は周りを見渡した。
皆が自分の為に集まり、賑やかな時間を過ごしている。それ自体は今までにも無かった事ではないけれど、今その中心に居るのはさえりだ。さえりが皆の心を動かし、今がある。
なんて、幸せ者なのだろう
光秀はくいっと盃の酒を飲み干した。