第24章 誘惑
誘惑期間最終日。
朝、さえりは光秀を送り出す。
「行ってくる」
「み、光秀さん」
さえりは光秀の側に寄り、じっと見つめた。
「ん?」
「……行ってらっしゃい」
「ああ」
出掛けて行く光秀を見つめながらさえりはその場に座り込んだ。
実力行使。今日は自分から光秀に口づけると意気込んでいた。でも実際にするとなると、緊張してなかなか出来ない。
まだ、時間はあるはず。なんとか今日中に…!さえりは決意を固めていた。
夕刻。家康に貰ったお香を焚く。いい香りが部屋に立ち込める。
「ただいま。新しい香か」
光秀が帰ってきた。
さえりはおかえりなさいのキスをしようと駆け寄る。光秀の腕に手を添える。緊張して少し震える。顔が近くてドキドキして、思わず視線を逸らしてしまう。
「おかえりなさい……」
また勇気が足りなくて出来なかった。
タイムリミットが迫る。
夕餉の後、茶をすすりながら光秀はさえりに確認した。
「もうすぐ時間切れだが……問題ないか?」
朝からさえりがソワソワしているのは当然わかっている。おそらく口づけようとして葛藤しているのだろう。可愛いものだ。
さえりがそろそろと光秀の側に来て座った。頬を染めて光秀をじっと見つめる。光秀も黙って見つめ返す。
長い沈黙。光秀はただ待った。
やがて意を決したように、さえりが腰を浮かせる。
ちゅ、と自分の唇に一瞬柔らかい唇が触れた。
「終わり、か?」
笑みを浮かべて問うと、さえりは少し泣きそうな表情をしながらも光秀の肩に手をのせた。そして今度は長く口づける。
おずおずと遠慮がちにさえりの舌が差し込まれ、光秀の口内を彷徨う。光秀はそれに応えるように、舌を絡めた。くちゅくちゅと聞こえる水音が互いの熱を煽る。
暫くして唇が離れ、さえりが真っ赤な顔をして、潤んだ瞳で聞いてくる。
「だめ、ですか……?」
ぷつり、と光秀の中で何かが切れたような音がした。
駄目なものか……!
光秀は勢いよくさえりを押し倒し、噛みつくように、口づけた。