第24章 誘惑
誘惑期間2日目の午後。
光秀はさえりと待ち合わせている茶屋へ向かう。茶屋の前にかかる橋の上で欄干にもたれ、さえりが待っていた。後ろ姿でもすぐにわかる。
「あっ、光秀さん」
さえりが光秀に気づき、ブンブンと手をふる。
随分とめかし込んでいるな、と光秀は思う。
さえりは今流行りの小袖を身に纏い、化粧をし、髪を結い上げ、いつだったか光秀が贈った髪飾りを付けていた。全てが自分の為だと思うと、温かい気持ちと同時に押し倒してしまいたい衝動にかられる。
「馬子にも衣装だな」
「もう! 第一声がそれですか」
「冗談だ。……綺麗だぞ」
最後の一言は耳元で囁くように告げると、さえりはすぐに頬を染める。
手をとり指を絡める。するとさえりは嬉しそうに微笑み、まず茶屋へ行きませんか、と言った。
茶屋でくつろいだあと、市をめぐる。キャッキャと目を輝かせてはしゃぐさえりを見るのは愉しい。
「光秀さん。何かお揃いの物を買いませんか?」
「いいぞ。何が良いかな」
さえりは辺りの店をキョロキョロと見渡す。
「あそこで扇子売ってますよ」
二人は色違いのお揃いの扇子を買った。
「嬉しいな」
大事そうに扇子を仕舞うさえりを光秀は少しこそばゆい思いで見つめていた。
その夜――
さえりは少しへこんでいた。
今日のデートは楽しかった。とても。
隣で光秀が寝ている。
喜んでくれたとは言え、光秀が指定する誘惑、という意味では料理もデートも失敗だ。
女としての魅力が少ないのかな、と心配になる。
明日は3日目。こうなったら実力行使だ! と心に決めて、眠りについた。
狸寝入りをしていた光秀は目を開けた。
隣でさえりの寝息が聞こえる。
3日間にして良かった。これ以上は俺の理性が持たない。思った以上にさえりが可愛くて困る。
光秀はさえりに気付かれないように、髪をひと掬いして、そっと口づけた。