第24章 誘惑
誘惑って、どうやるんだっけ……
誘惑期間初日。
さえりは悩みながら安土城の廊下を歩いていた。余りに悩みすぎていたために、角を曲がって来た人物に気付かず、ぶつかってしまった。
「きゃっ。ごめんなさい」
鼻を押さえながら慌てて謝ると、ぶつかった相手からも謝罪の言葉が降ってきた。
「こちらこそすみません。さえり様、大丈夫でしたか?」
「三成くん……うん、私は大丈夫」
心配そうな表情を浮かべる三成に罪悪感が募る。
「何か悩み事ですか?」
「あ、えっと……そんな所かな……」
さえりはしどろもどろになりながら、三成の質問に言葉を濁す。
「私で良ければいつでも相談にのりますから、遠慮なく仰って下さいね」
にこにこと笑みを浮かべる三成に、さえりは少し悩む。三成くんならオブラートに包めば気づかれないかも、と意を決して相談してみる事にする。
「あの、ね……」
「はい」
「例えば……例えばだよ? 三成くんが好きな女性が居たとして……、その、惹かれる仕草ってどんなのかな?」
結局オブラート所かストレートに聞いてしまった気もするが、構わず三成の答えを待つ。
「そうですね……」
三成が暫く考え込む。
「一生懸命に働いておられる、さえり様の姿は好きですよ」
無邪気に答える三成に、さえりは赤面した。
この天然小悪魔……!
まさかそんな答えが返ってこようとは。聞いた私が馬鹿でしたとばかりに、たじたじになるさえり。その時、後ろから声がした。
「面白そうな話をしているな。俺も混ぜろよ」
声のする方を振り向くと、政宗が立っていた。一体いつから聞かれていたのかとさえりは驚く。
「三成。さえりを口説いてるのか? 光秀に怒られるぞ」
さえりの赤い顔を見て政宗が三成をからかう。
「私はただ本当の事を申しあげただけですよ」
「本当の事? 好きだって事が?」
政宗は目を丸くする。
「はい。さえり様が、惹かれる姿を知りたいと仰るので」
「み、三成くん!」
三成にあっさりとバラされてしまったさえりは慌てふためいた。