第10章 幻影少女
「まぁまぁ。君に頼まれた件も、もちろん調査するさ」
暴れ馬を落ち着かせるように、スティーブンがダニエルをなだめすかす。
「今すぐにそうして欲しいもんだね。…それで、アンタら一体何を探っていた? 俺の力であの場から解放してやったんだ。聞く権利くらいあるだろうが」
怒り口調のまま、ダニエルはスティーブンに詰め寄った。
クラウス達の行動が何か他の事件に繋がっているとすれば、みすみす情報を見逃す事をダニエルはしない。
先ほど窮地を救ったという恩義もある。
ダニエルの目はギラギラと光り、情報をいまかいまかと待ち構えていた。
「別に隠すような事じゃない。僕たちはある少女の行方を追っている」
「何の事件絡みだ?」
「今日の、列車脱線事故。加えて、異界人の発狂事案にも関連があるかもしれない」
「!! アンタらなぁ。そういう大事な事を何故黙ってる? がっつりウチの管轄の事件じゃねぇか!」
「そうだったのか、すまない」
「まぁいい。で、その少女とあの男と、どういう繋がりだ?」
「私の出会ったミス・アメリア・サンチェスという少女が、事件の鍵を握っていると思われるのだが……記録では彼女は3年前に亡くなった事になっている。そこで両親に本当にミス・アメリアは亡くなったのか確かめに行ったのだ」
「なるほどな……それで、回答は得られたのか?」
「いや……しかし、あの父親の様子からミス・アメリアが何らかの方法で生きている事は分かった」
「何らかの方法ってなんだよ。あれか、ゾンビか? 今度はネクロマンサーでも出てくるってのか」
「……なるほど」
クラウスはダニエルの言葉に、ハッとさせられたような顔をした。
隣で見ていたスティーブンがすかさずツッコミを入れる。
「おいクラウス、冗談に決まってるだろう」
「ハッ! あんたんとこのボスは面白ぇな。その少女の顔は分かんのか。画像あるなら寄越せ。こっちでも捜索する」
「うむ。これだ」
クラウスがセントレギスの監視カメラ映像をプリントアウトしたものを手渡すと、ダニエルは笑みを浮かべた。
「えらくハッキリ映ってんじゃねぇか。これならすぐ見つかるだろ。……おい、俺が頼んだ方も忘れんなよ」