第10章 幻影少女
2人は、アクリル板に残った血の跡を忌々しそうな目で見つめていた。
「君達、事情を聞かせてもらおうか」
クラウス達が振り返ると、3人の刑務官が2人を逃がすまいと立ちふさがっていた。
その表情を見るに、穏やかな感じではない。
突然父親があんな状態になったのだ。
クラウス達が何か仕掛けたと疑われるのも無理はなかった。
「事情も何も、全部筒抜けだったろう?」
面会においては、会話は全てオフィサーに聞かれている。
もちろん監視カメラも設置してあり、その上、始終面会の様子を刑務官達がすぐ側で監視している。
そんな中で、クラウス達が受刑者である父親に何かする事など、不可能なはずなのだ。
「あんたらライブラだって? 変な魔術でも使ったんじゃないのか?」
「あの男を俺達が殺して何の得がある。事情を聞きにきて殺すヤツがいるか?」
「知らないよ。だがアンタ達の面会中におかしくなったんだ。まずはアンタらを疑うのが筋ってもんだろう」
「…ハァ。困ったな……」
「おとなしく来てもらおうか」
刑務官達が警棒を構えつつ、クラウス達ににじり寄る。
じりじりと詰められる距離に、突然スティーブンが体の前に手を出してそれ以上こっちへ来るなと言外に示す。
「……待った。ダニエル・ロウ警部補を呼んでくれないか」
「はぁ?」
「知り合いなんだ。彼ならきっとこの誤解を解いてくれるはずだ」
「……ひとまず、こちらに来てもらおう。警部補にはそれから連絡する」
「分かったよ」
抵抗の意志はないと見せるため、クラウスとスティーブンは両手を軽くあげて刑務官の指示に素直に従った。
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「ったく、俺の名前出して面倒起こすなってんだ」
「すまない、助かったよ警部補」
こめかみに血管を浮き上がらせ、ダニエル警部補はクラウス達を一睨みした。
急な呼び出しを受けて刑務所まで来てみれば、先ほど事件の捜査を依頼したクラウス達がいたのだから、ダニエルにしてみれば「一体何をしているんだ」と言いたくなるのも無理はなかった。
「で。これは俺が頼んだ件と関係あるのか?」
「いや、これは全くの別件だ」
ダニエルの睨みに怯むことなく平然と答えるクラウスに、ダニエルは小さく舌打ちをした。