第10章 幻影少女
「……何故この写真の少女がご息女だと?」
「はぁ? そりゃ俺が父親だからだよ。まぁ殺しちまった奴が父親名乗るのもどうかって話だけどな」
父親はニヤニヤとしまりのない笑みを浮かべたまま話す。
「私は、一言もこの写真の少女がご息女だとは言っていない」
「……あ?」
それまでニヤついていた父親の顔から、さっと笑みが消えた。
父親はクラウスの発言の意図をフル回転で掴もうとし始める。
「ミス・アメリアは、10歳の時に貴方に殺められてしまった。この写真の少女はどう見ても、10歳には見えない」
「何が、言いたい」
父親の顔に、冷や汗が浮かんだ。
クラウスの目が、父親をどこまでも追い詰めようと鋭さを増す。
「貴方はミス・アメリアが何らかの方法で生きている事を知っていた。だからすぐにこの少女が自分の娘だと気付いた。違うかね?」
「……あんたら、いくらライブラっつってもそれ以上首を突っ込まねぇ方が身のためだぜ」
そんなセリフを吐いてしまえば、アメリアについて何か事情を知っていると吐露したも同然だった。
後はこの父親から情報を得るだけだ。
「知っている事を話してもらおう」
「……無理だ」
そう簡単に、父親が口を割るとはクラウスもスティーブンも思っていなかった。
だがクラウス達も簡単に諦めるわけにはいかなかった。
「我々に隠し立ては出来ない」
「残念だが、協力は……っ!! うぁぁぁぁっっっ!!!」
「!!」
突然、父親は自分の胸を抑えて苦しみだした。
アクリル板に手をつき、白目をむき出しにしてもがき苦しんでいる。
「どうしたのだね?!」
「クソ! いきなりなんだってんだ!」
慌てるクラウスとスティーブンだったが、アクリル板越しには何も出来ない。
ギギギ、と不快な音をたてて父親の爪がアクリル板を引っかいた。
爪が剥がれるのも構わず、父親は板を引っかき続けている。
飛んできた刑務官達に引きはがされ、父親は口から泡を吹きながら運ばれていった。
「…奴の体に術式でも仕込まれていたのか……?」
運ばれていく父親を見つめたまま、スティーブンが呟いた。
「秘密を、洩らさないようにか」
クラウスと目を合わせたスティーブンは、目を伏せて頭を掻きだす。
「厄介なヤツが裏にいるってことだな」