第10章 幻影少女
しかし、積極的な参加というよりは、無理矢理に片棒を担がされた状況であったらしい。
彼女自身、夫から酷い暴力を受けていたそうだから、逆らえない精神状態だったのかもしれない。
我が子に手をかけてしまった母親。
それでも幾分かの愛情はあったのだろう、ミス・アメリアの名前をクラウスが口にした途端、母親の表情は苦悶に満ちたものになった。
「……これを、見ていただけますか」
クラウスは、アメリアの姿が映ったセントレギスの監視カメラの映像をプリントしたものを母親に見せた。
母親の目は食い入るように、その写真を見つめている。
「まさか……そんな……あの子は、確かに死んだんです……」
震えながら、母親はクラウスにそう告げた。
嘘をついているようには見えなかった。
この母親の反応からすると、クラウスが数度出会ったあの少女は、やはりミス・アメリアなのではないか。
スティーブンの頭にそんな考えが浮かぶ。
しかし、死んだはずの少女が一体なぜ。
母親も、クラウスも、スティーブンも。
三人ともがそう考えていた。
アクリル板越しにミス・アメリアの写真を涙をこらえながら見つめる母親の姿に、クラウスの胸にチリリと鈍い痛みが走る。
「……クラウスさん、貴方はあの子が生きていると仰いたいのね」
「やはり、この少女はミス・アメリアで間違いないのですね」
「生きていれば、きっとこのくらいに成長していると思います。…でも、私はあの子が死んだのをこの目で見ています。葬儀も執り行いました。あの子は今はお墓の下で眠っているはずです」
「しかし、彼女は自分をミス・アメリア・サンチェスだと名乗ったのです」
「……どういう事か、私には全く分かりません。あの子は死んだんです。それだけは、確かです。だって、私はあの子を……!」
そこまで言うと母親は言葉に詰まって泣き崩れてしまった。
クラウスは自分が母親を追い詰めてしまったと、自責の念にかられた。
アクリル板越しに、なんとか母親を慰めようとするも、その想いは届きそうになかった。
「…クラウス、これ以上は無理だ」
母親はそれ以降嗚咽を漏らすばかりで、とても話が出来る状態ではなかった。
スティーブンに促されて、クラウスはそれ以上の会話を諦め、その場を辞した。