第10章 幻影少女
「チェイン、両親の収容先は」
スティーブンが尋ねると、すぐさまチェインは答えた。
「アッティリカ刑務所です」
**********
「クラウス、金髪の少女の情報も入ったぞ」
刑務所に向かう道中の車内で、飛び込んできた情報をスティーブンはクラウスに伝えた。
「名前はクロエ・アンダーソン。2年前にアンダーソン家に養子として引き取られている。それ以前は養護施設にいたようだが……そこから以前の記録が何もないらしい」
「記録がない?」
「出生届も社会保険番号も無かったようだ。…この子も何かワケがありそうな子だな」
「うむ……ミス・アメリアとの関連は?」
「今のところゼロだ。列車事故との関連性もみられない」
金髪の少女からミス・アメリアを辿る線は潰えてしまった。
クロエ・アンダーソン。
彼女の出生にも何か秘密はありそうに思えたが、親が何かの事情で出生届を出さなかったのだろう。
私生児だったのか、未婚の若い恋人達の間に生まれたのか、望まぬ子だったのか、理由は定かではないが。
「君が見間違えたのも頷けたけどね。あの監視カメラの映像を見たら。確かにクロエ・アンダーソンと君が探している少女はよく似ている。 ただ今のところは、他人の空似だとしかいいようがないな。…案外本当にいるのかもね、ドッペルゲンガーが」
車は、アッティリカ刑務所へと走り続けた。
***********
─アッティリカ刑務所─
「…どういったご用件でしょうか」
面会室に現れたミス・アメリアの母親は、クラウスとスティーブンの両名の顔を見て、怪訝な顔で恐々とそう尋ねた。
見知らぬ男達の突然の来訪に、驚かない方が無理がある。
クラウスは深々と頭を下げ、自己紹介を始めた。
「初めまして。クラウス・V・ラインヘルツと申します。ご息女であるミス・アメリアについてお話をお聞かせ願いたく参りました」
「アメリアの事、ですか……? 今更、蒸し返して何になるっていうんです?」
チェインが報告した事件のあらましによれば、この母親もミス・アメリアの殺人に加担していたという事だった。