第10章 幻影少女
─ライブラ事務所─
ダニエル警部補との接見から戻ったクラウスとスティーブンは、チェインからミス・アメリアについての調査報告を受けていた。
「何だって? ミス・アメリアは……」
クラウスはチェインの報告に耳を疑った。
再度確認するように、クラウスの目はチェインの顔を凝視する。
「すでに死亡しています。3年前に」
上司の鋭い視線に一切の動揺も見せず、チェインは冷静に事実を報告する。
横で聞いていたスティーブンも冷静に報告を受け止めている。
「偽名だったって事だな。しかしフルネームを知っていたのであればアメリア・サンチェスに近しい人物には違いない。その子の周辺から探れば……」
スティーブンの言葉に、待ってましたと言わんばかりにチェインが報告を続けた。
「アメリア・サンチェスにはイアンと言う名の兄が1人いますが、その兄も同じく死亡。両親はともに刑務所の中です」
「刑務所?」
「……自分達の子供を殺した罪で服役中です。生前、その兄妹は自宅にて監禁されていたとの事です」
「なんという……」
チェインの淡々とした声とは正反対に、クラウスは沈痛な面持ちだ。
たとえ名前を騙られた会ったことのない少女だとしても、家族にそのような仕打ちを受けていた少女がいたこと自体、クラウスが心を痛めるのに十分すぎる話だった。
亡き少女に胸を痛めるクラウスをよそに、スティーブンは普段と変わらない表情で淡々と話をすすめた。
情に厚いことはリーダーの美徳である。
しかし、情に流されてばかりでは、本来全うすべき事から外れてしまう事もある。
あくまで冷静沈着に、淡々とリーダーであるクラウスの補佐をする。
それが副官であるスティーブンの仕事であった。
「では学校に通ってもいないという事か……クラウスの会った少女はどこからアメリア・サンチェスの名を知ったのか……」
「あるいは、彼女はミス・アメリア本人なのかもしれない」
クラウスの口から飛び出した言葉に、スティーブンもチェインも驚きを隠せなかった。
何をもって、クラウスがそんなことを言い出したのか定かではない。
単に可能性の話だろうか。
「……死んで、いなかったと?」
スティーブンの問いかけにクラウスは頷く。
「両親に確かめてみよう」