第8章 隠れ家にて
彼が望むことは、私も望むこと。
イアンの願いを叶えるためなら、なんだって協力しようと思う。
人を操る力があれば、イアンの望む世界を創ることだってきっと容易い。
現に、幻術を使う異界人を手駒にしてしまったんだし。
『このまま街中の人を操ることだって、出来るんじゃないの』なんて言った私に、それは無理だよ、ってイアンは笑っていたけど。
教会を出た頃と比べて、確実にイアンの力は強くなっている。
どこまで彼がやれるのかは分からない。
でも、私は最後まで彼の側で、共に行動したいと思う。
空に浮かぶ月を眺めながら、そんな事を考えていた。
「寝ないの? リア」
振り返ると、アメリアがいた。
今日一日大冒険をしてきた彼女は、クラウスとかいうお貴族様にもらった洋服を大事そうに抱えていた。
イアンが苦々しい顔でアメリアの話を聞いていた気持ちがよく分かる。
知らない男からもらったものをあんなに大事そうに抱えて、何度も名を口にしているアメリアの姿を見たら、イアンもイライラせずにはいられないだろう。
「……イアンが帰ってくるまで待ってる」
「そう……私、」
いやだ、あんたも待つとか言い出すんじゃないの。
お人よしのアメリアの事だから、きっとそう。
「あんたは先に寝てなよ。今日一日色々あったんだし」
「…うん、そうするね。お休みなさい、リア」
「おやすみ」
牽制しておいて良かった。
まぁ実際疲れているのだろう、アメリアは静かに寝室へ入っていった。
ふと、寝室のドアの前に小さな白いものが落ちているのが目に入った。
「何これ」
拾って表裏確認すると、どうも名刺のようだった。
裏には走り書きの文字が書いてあったけど、滲んでよく分からない。
表には綺麗に印刷された文字が並んでいた。
─LIBRA Executive Director─
Klaus V Reinherz
「ライブラ、常務…取締役……クラウス・V・ラインヘルツ……」
クラウス・V・ラインヘルツ。
アメリアが何度も名前を口にしていた人の、名刺だ。
ライブラって何。
会社の名前?
慈善事業みたいな仕事してるって言ってたっけ。