第8章 隠れ家にて
イアンとアメリアが血の繋がらない兄妹だと知ったのは、教会に入ってしばらくしての事だった。
それで私は全て納得がいった。
イアンがどうしてあそこまでアメリアの事を大事にしているのか。
彼は、ただの“兄”としての枠組みを越えて、アメリアの事を想っている。
直接本人に尋ねたことはないけど、きっとこの予測は間違ってないと思う。
恋する人間には、分かる。
恋した相手が、誰をどう想ってるかなんて。
牧師が死んで、私達を縛るものが無くなって、チャンスだと思った。
自由になれば、イアンがそこまで必死にアメリアのことを守らなくても良くなるって思ったから。
だけど、現実はそう簡単にいかなくて。
教会の中も、外も、私達だけで生きていくにはどちらも厳しい世界だった。
食べ物も寝る場所も確保されていた分、教会にいた頃の方がマシだったとさえ、始めのうちは思えた。
私達は生きるのに必死で、食べ物があればすぐに口に入れたけれど、アメリアだけはそうじゃなかった。
イアンが手渡したものでなければ、食べ物はおろか水さえ口に出来ない。
はじめはイアンの気を引きたくてわざとやってるんだと思った。
本当は食べられるのだと思って、私や他の子がアメリアに食べ物を渡していたけど、口にしても必ず戻してしまう。
そこまでしてイアンの気を引きたいのかと私は怒り心頭だったけど、そのうち何も口に出来ずに苦しんでる彼女の姿を見て、嘘じゃないとようやく分かった。
理由はよく分からない。
教会で常に牧師に『対価』の話をされていたから精神的に刷り込まれてしまっているのだろう、とイアンは言っていたけれど。
じゃあ何故イアンから手渡されたものなら口に出来るのか、と尋ねた私に対する答えはなかった。
イアンは自分がアメリアに頼られていれば理由なんてなんでもいいのだ。
面白くない。
教会の中でも、外でも、イアンはやっぱりアメリアの事ばかりで。
だけどそんな彼が唯一、アメリア以外の事に興味を示した。
“大人達への復讐”だ。
私は別に復讐しようがしまいがどっちだって良かった。
復讐したって私達がされた事が消えるわけでもなし。
気分は多少、晴れるかもしれないけど。
けどイアンの気持ちがアメリアから逸れるのなら、いいと思った。