第8章 隠れ家にて
「リア、アメリアは優しい子だから。僕らの考えに同意することはないよ」
リアは何か言いたげだったけれど、兄さんがそれを制した。
「でもねアメリア。お前が僕らの考えに納得しないように、僕らもお前の考えに納得することは出来ない。お前のことを悪いようにはしない。ただ、僕らの邪魔はしないでほしい」
「…ノー、と言ったら?」
「……もし、邪魔をするのなら」
スッと兄さんが私の方へ手を伸ばす。
私の額に触れるか触れないかのところで、かざした手を止めた。
「操ってでも、止める」
冷たい声だった。
兄さんの目も、氷のように冷たく鋭い。
一片の冗談も無く、本気で言っているのが感じ取れる。
思わずごくりと息をのんだ。
「……まぁ、それは本当に本当の最後の手段にとっておくよ。僕だって、妹を操るなんてことしたくないから」
にっこりと兄さんは微笑みを浮かべたけれど、私にはまったく穏やかなものには見えなかった。
邪魔建てすれば、たとえ妹だろうと誰だろうと、兄さんは手を下すつもりだ。
本当に、前の兄さんとは変わってしまった。
こんな恐ろしいことを、平然と言ってのける兄さんじゃなかった。
口は悪くても、心の奥底には優しさがある人だった。
はずなのに──……。
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*リアside*
イアンとアメリア。
二人はとても仲の良い兄妹だった。
教会で初めて出会った時から、その仲の良さはすぐに見て取れた。
アメリアの代わりに牧師の相手を買って出るイアンの姿を見た時は、兄とは妹の為にそこまでするものなのかと感心したくらい。
私にはきょうだいがいなかったから、あんな環境下でも大事にされてるアメリアが羨ましかった。
アメリアと私の年が近いからか、イアンは私の事も気にかけてくれていた。
狭い狭い閉じ込められた空間の中で、優しくしてくれる年上のイアンに恋心を抱くのに時間はそうかからなかった。
だけど、イアンの事を目で追えば追うほどに、彼が私の事など一片たりも眼中に入れていないことに気づかされた。
イアンの中心は全てアメリア。
彼女が世界の中心かのように、イアンは行動するのだ。
アメリアさえいなければ。
私がそう思ってしまうのも無理ない話だと思う。