第8章 隠れ家にて
「なってくれた、ってのは語弊があるかな。仲間に“した”んだ」
「つまり、その彼の事を操っている、ということ……?」
兄さんが頷く。
隣にいるリアは何故か得意満面の笑みを浮かべていた。
兄さんの力が誇らしいのだろう。
彼女は私達の中で、兄さんの力に対して一番の信奉者だ。
「すごいでしょ! イアンの力は。イアンがいれば、この世の中私達の思いのままに出来るわ」
リアの目はすでにどこか遠い夢の世界に旅立っているようだった。
自分の思い描く素晴らしい世界の中で、幸せを感じているのだろう。
だけど、私はリアの言う通りだとは思えなかった。
教会を出て少しの間だけど、色々なものを目にした。
ミスタ・クラウスの不思議な力。
それを平然と受け止める街の人達。
たとえ兄さんの力がすごいものだとしても、きっとこの街の中では数多ある能力のうちの一つに過ぎない気がする。
現に、今目の前にいる幻術を使う異界人みたいな存在だってあるのだから。
部屋を丸ごと隠すなんて力を持ったこの異界人が、もし兄さんの力から抜け出して私達に牙を向けたら?
私達なんて、それこそひとたまりもないだろう。
「…そう簡単にいくかしら。この街には兄さんのような不思議な力を持った人達がたくさんいるわ。目の前の幻術を使う彼もそうだし、ミスタ・クラウスだって……」
「出た。また、その人? クラウス、クラウスって馬鹿の一つ覚えみたいに連呼しちゃって」
「リア」
「悪いけどね、イアン。これだけは言わせてもらうわ。いくら貴方の妹でも、貴方の力を見くびってもらっちゃ困るもの。アメリア、何故自分のお兄さんの力をもっと信じないの?」
「信じてるわ。だけど、その使い方に納得はしていない。こうやって他人を操って自分達のいいように使おうだなんて」
「こんな状況で真面目ぶるのやめてくれない? イアンの力が無ければ、私達あのまま教会で壊れるまで客を取らされて、用済みになったら食用に売り飛ばされてたのよ」
「それは……確かに、あの場から逃げるには必要だったかもしれないけれど、それ以上のことに力を使うべきではないと私は思うわ」
リアとの話は兄さんと言い争った時と同じだった。
兄さんも、リアも。
力を使って大人に復讐をすることに抵抗が無い。
それどころか、世の中を自分の思うままにしたいだなんて。