第8章 隠れ家にて
「ミスタ・クラウスはとても立派な方よ。お仕事だって、」
言いかけて、口をつぐんだ。
いけない。
いくらミスタ・クラウスが私に話してくださったからって、私が簡単に他の人にライブラの話をしていいはずがない。
ミスタ・ギルベルトが事務所の場所を隠したがっていたように、ライブラの“秘密”は守らなくちゃいけない。
「仕事が、何?」
「…その、とても立派なお仕事をされていて……」
「どんな? 慈善事業でもしてるっていうの?」
「…似たようなことよ」
「何よ、ハッキリしないわね。まぁその人の仕事が何だって別に構わないけど」
リアは特に興味がないらしく、それ以上深くは追及してこなかった。
「リア、君はなんでそうアメリアに突っかかっていくんだ。僕たちは家族だろ? もっと優しく接してあげてくれないか?」
「……悪かったわよ、イアン。あなたの大事な妹だものね。気を付けるわ」
リアは兄さんの言うことであれば、素直に聞き入れることが多い。
きっと兄さんのことを好きだからだと思うけれど、その反動なのかなんなのか、私にはきつく当たってくることが多かった。
「アメリア、そういえばこの場所について説明していなかったな。僕たち新しい住処を見つけたんだ。そして新しい仲間も」
「新しい、仲間……?」
「コイツさ」
「!!」
兄さんが隅っこの方に視線をやると、白い壁の奥からうっすらと“新しい仲間”が姿を現した。
人ではない。
宙をユラユラと漂う、無数の目玉の集合体がボロボロのマントを羽織っている。
異界の者だ。
その異様な姿に、背筋が冷たくなっていった。
けれど兄さんが“仲間”と呼んでいる通り、私達に危害を加えてくる様子はない。
「彼はね、幻術が使えるんだ。この力があれば、僕たちの姿を隠すことだって簡単なんだ。今だって、この部屋自体を幻術で隠している。だから誰も僕たちを追ってこれない。たとえ教会の関係者が僕らを探していたってね。色々と使い道が多そうな力だよ」
兄さんはすごく嬉しそうに話している。
「そんなすごい力を持った彼が、どうして仲間になってくれたの……?」
何の見返りもなしに、私達の力になってくれるなんて、さっきのリアじゃないけれど「おかしい」としか思えない。
それこそ何か下心があるんじゃなかと疑いさえする。