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【血界戦線】歌声は遠くに渡りけり

第8章 隠れ家にて



「赤毛の大男だよ、リア。ほら僕が初めて異界人を暴走させた時に、真っ赤な十字架を背負ってたやつがいたろ。獣みたいな牙を生やした、スーツの男。一度見たら忘れられない顔のさ」

兄さんが横から口をはさむと、リアは大きく頷き始めた。

「ああ、あの人! へぇ、アメリアのテクは外に出ても健在なのね」

リアの言葉を受けて、兄さんの顔が豹変した。

「…まさかアメリア、お前体を売ったのか?」

「そりゃそんな事でもしない限り、こんな服簡単にもらえる訳ないでしょう、イアン」

「いいえ。そんな事していないわ」

リアの眉がくっと上がった。
疑いの眼差しで、こちらを見ている。

私も、はじめは体を差し出そうとしたくらいだ。
リアの思うことも分からなくもない。

「ウソでしょ? どこにそんな奇特な人間がいるっていうの」

「ミスタ・クラウスは下卑た行いはなさらない方なの。私がスカートを破って彼の止血に使ったからと、弁償だと仰ってこの服を贈ってくださったの」

リアは兄さんと顔を見合わせた。
そして二人して声をあげて笑い出した。

「まさか! それでこんな高級な服を?! あり得ないわ、何か裏があっての事よ。弁償ならあんたが着ていたのと同等の服を買えば済む話でしょ。わざわざそんな高い服をくれるなんて。絶対、あんたの体が目当てだったのよ」

「だから、ミスタ・クラウスはそんな方ではないの! 彼は貴族よ。……そういったお相手なら、何も私でなくとも十分にいらっしゃるはずでしょ」

「分からないわよ。たまには下々の人間と遊びたくなるのかもしれないし。教会に来てたのだって、立派な身なりの大人ばっかりだったじゃない。あんたってホントすぐ人を信用するんだから」

「リアもお会いすればきっと彼が素晴らしい徳のあるお方だと分かるわ」

「そうね、私ならミスタ・クラウスに取り入ってもっとたくさん貢がせて見せるわ」

「リア!! 何度も言ってるでしょう!! ミスタ・クラウスの事をこれ以上侮辱しないで!」

「あら、怖い。そんなにムキになるなんて、その人の事好きになっちゃったの?」

「そうじゃなくて……!」

ミスタ・クラウスに対して思慕の念は確かに抱いている。
けれどそれは彼を尊敬しているからであって。

リアの言う“好き”という言葉で簡単に片づけてほしくなかった。


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