第7章 信頼
*アメリアside*
ミスタ・クラウスに、列車事故のことを尋ねられ、口ごもるしかなかった。
私の言葉を聞き入れようとしない兄を止めるには、ミスタ・クラウスのような方のお力を借りなければいけないと、頭では分かっていた。
けれど、兄の力の事が知れてしまったら。
兄は、どうなるのだろう。
警察に捕まるだけで済めばいい。
その道中でまた兄が誰かを操ったら?
周囲を巻き込んで、被害を大きくしたら?
その犯人の兄は、無事でいられるだろうか。
あの、異界人をあっという間に亡き者にしてしまったように。
兄も、同じように殺されてしまうのではないか。
そんな不安が頭をよぎり、私は素直に兄の事を話せないままでいた。
けれど、ミスタ・クラウスがご自分の秘密を私に明かしてくださった。
そして私を対等な存在だと認めてくださった。
そんな事、大人にされた事が今まで無かったから。
ようやく私はミスタ・クラウスを信頼して、全てをお話ししようと口を開いた。
けれど。
──キャアアアア!!
突然、車の外で大きな悲鳴が上がった。
それと同時に、前方の車両が空高く舞い上がるのが目に入る。
私達の車の横を、たくさんの人達が一目散に逃げていく。
また車両が宙を舞う。
そして大きな腕がブン、と唸るように車を投げているのが見えた。
車を放り投げ、あちこちを破壊しながら、その異界人はどんどんこちらの方へ近づいてきていた。
奇しくも、車は32番街に到着しようとしていたところだった。
兄さんが異界人を暴れさせた、あの場所と同じところで、また騒ぎが起きている。
嫌な胸騒ぎがする。
もしかしたら、この騒ぎを引き起こしたのは。
「ギルベルト、彼女を事務所へ。私も後から向かう」
「かしこまりました。坊ちゃまお気をつけて」
「ああ。 すまないミス・アメリア。話はまた後程」
「ミスタ・クラウス……」
ミスタ・クラウスは振り返ることなく、車から降りて行ってしまわれた。
ミスタ・ギルベルトも何の迷いもなく、車を動かし始める。
お互い、大丈夫だと分かっているからだろうか。
それだけお二人ともお互いを信頼しあっているのだろう。
離れていく騒ぎの現場のどこかに、兄さんの姿がありはしないかとしばらく眺めていたけれど、確認できなかった。