第7章 信頼
「ご安心くださいアメリア様。坊ちゃまは大変、お強い方ですから」
そう言って、バックミラー越しにミスタ・ギルベルトは穏やかな笑みを見せてくださった。
私が現場を凝視していたのを、ミスタ・クラウスを心配しての事だと思われたようだ。
「ええ……」
「このままライブラの事務所へお連れ致します。申し訳ありませんが、この目隠しをしていただけますか」
手渡されたアイマスクを受け取る。
目隠し。
“秘密結社”だというお話だったから、場所を知られたくないのだろうか。
ミスタ・クラウスは事も無げにライブラの話をされたというのに、やはり“秘密”を重んじられねばならない存在という事?
断るわけにもいかず、アイマスクを付けようとした瞬間、車が大きな衝撃を受けた。
「っ?!」
べコリと大きな音がして、天井部分が歪にへこむ。
何かが車の上に落下したような感じだった。
建物か何かの破片でも降ってきたのだろうか。
そう思った時、今度はギギギと音がして、天井部分に鋭い爪のようなものが見えた。
「アメリア様、しっかりと掴まっていてください」
ブン、と大きく車がカーブする。
ミスタ・ギルベルトは上にいる何かを振り落とそうとされているようだった。
運転席に必死にしがみつく。
体が右に左に思い切り引っ張られる。
数度それを繰り返すうちに、車を引っかく爪が、天井から消えた。
うっすらと空が見える天井の穴をまじまじと見つめてしまう。
「っ!」
ドン!と大きな衝撃が再び私達を襲った。
今度は鋭い爪は車全体を引き裂かんばかりの勢いで、天井を突き破ってきた。
「ミスタ・ギルベ……!!」
一瞬だった。
フロントガラスが砕け散る中、大きな鋭い爪は、運転席のミスタ・ギルベルトを車もろとも引き裂いた。
飛び散る血しぶきと、引き裂かれたミスタ・ギルベルトの体。
真っ赤に染まるシート。
声にならない悲鳴を上げて、私の意識は真っ白になって消えた。