第7章 信頼
しかし彼女に何か特殊な能力があるとも、犯人あるいは共犯者だと断定するにも、何一つ証拠がない。
何か情報を持っているのは確かだが、決めつけてかかってしまっては、彼女はますます口をつぐんでしまうだろう。
みすみす情報を逃す手はない。
あくまで彼女に寄り添う姿勢で、ミス・アメリアに協力を仰がねばなるまい。
「何か話せない、話したくない事情があるのだね」
彼女は小さく頷いた。
けれどその表情は申し訳なさそうな表情で、彼女の本心では、事故の事を話したがっているようにも思えた。
「…ミス・アメリア。この名刺に、“ライブラ”とあるだろう」
胸元のポケットから取り出した名刺を一枚、彼女に手渡す。
「“ライブラ”とは、その天秤のモチーフが示すように、世界の均衡を守る秘密結社なのだ」
「世界の均衡、ですか? それに、秘密……結社?」
ミス・アメリアはゆっくりと首をかしげ、要領を得ないといった顔になる。
なるだけ彼女に分かりやすいように、噛み砕いて説明する。
「この街で起きる出来事の中には、この街の外、つまり世界を揺るがしかねないものも多数あるのだ。我々ライブラは、そういった案件を秘密裏に処理する団体だ」
「……ヒーロー、のようなもの、でしょうか」
「英雄(ヒーロー)と自称するにはおこがましいが……世の平穏を守るという意味では近しいものかもしれないな」
「ミスタ・クラウスのお仕事については分かりましたが……私に話してしまって大丈夫なのですか? “秘密”なのではないのですか?」
怪訝そうな顔でミス・アメリアが私に尋ねる。
無理からぬ話だ。
“秘密結社”“秘密裏”などと言われては、気にかかるのも道理だろう。
「君に話してもらうのに、私の素性を隠したままというわけにはいくまい。君とはフェアに、対等に話をしたいのだ」
「対等に、ですか……」
「なにかおかしいだろうか」
「いえ、そんな風に仰っていただいたのは初めてでしたから……少し、感動してしまって」
ミス・アメリアは年の頃は16、7といったところだろう。
ティーンエイジャーの彼女は、これまで大人に対等に接してもらった経験がないのだろうか。