第7章 信頼
可能性としては3つ。
1つ目は、事故が起こるきっかけを目撃していた、もしくは彼女が誰かから事故が起きる事を聞いていた可能性。
2つ目は、彼女が予知能力の持ち主という可能性。
3つ目は、彼女が事故を起こした張本人あるいは共犯者という可能性。
最後の1つはあまり考えたくはないが、このヘルサレムズ・ロットにおいては誰がどんな事をしでかしても不思議ではない。
見た目で判断すると痛い目にあうのは、私も充分承知している。
いくら彼女が可憐でいたいけな少女であろうとも、万に一つの可能性を打ち捨ててはならない。
彼女の真の姿が一体どんなものなのか。
それを知るには、この閉ざされた走行中の車内はうってつけの空間である。
32番街まであと16分ほど。
遠回しに尋ねても仕方がない。
彼女のガードが少し緩んだ今、ここは即座に切り込んでいかねば。
「ところでミス・アメリア...あの列車事故について、少々君に聞いておきたい事があるのだが」
「……なんでしょう」
あからさまに、彼女の顔色が変わった。
先ほどまでの穏やかな笑みは瞬時に消え失せ、固く強張った表情だ。
「何故、君はあの時事故が起きることを知っていたのかね?」
「……それ、は……」
ミス・アメリアは何かを逡巡するように、私の顔と自身の足元との間に視線を彷徨わせている。
やはり、彼女は“何か”知っている。
だが、その“何か”を口にするのをためらっている。
何故だ。
先ほど考えた可能性1つ目が当てはまっていたのなら、彼女が口をつぐむ理由は何か。
私に話すことで、犯人、あるいはそれに準ずる者に自分の事が露見するのを恐れているのか?
しかしあのように騒ぎ立てていたのなら、犯人の耳にも入ってしまっているだろう。
となると、1つ目の可能性の線は薄い。
可能性2つ目の、彼女に“予知能力”があった場合。
自分の力が露見するのを恐れている。
これは理解できる。
他人においそれと教えてしまっては、彼女自身が悪用されかねない能力だ。
可能性3つ目、彼女が犯人もしくは共犯者の場合。
この場合も、彼女が口をつぐむ理由は明白だ。
自らの罪を告白することになるし、共犯であれば共犯者を売ることになる。
2つ目か、3つ目か。
そのどちらかの理由で、彼女は口をつぐんでしまっているのだろう。