第7章 信頼
……やはり、この顔が怖いのだろうか。
仕方のない事とはいえ、少しばかりショックだ。
この怯えたままの状態では、私の気がかりを彼女の口から聞き出すのは難しい。
しばらく雑談をして、彼女の緊張をほぐさねばなるまい。
「その、どうかね。服の着心地は」
「は、はい……とても良いです」
「そうか。それは何より。色やデザインはどうかね」
「え、ええ……大変気に入っています」
「それは良かった。いや、私とミス・レイチェルで決めてしまったようなものだったから、気になっていたのだよ」
ミス・アメリアは頑なに弁償を拒んでいた。
そこを無理にこちらの要求を通してしまっていた。
試着をしている時も、あまり気乗りしていない様子だった。
会話も私とミス・レイチェルの2人だけで行なっている状態だったから、彼女は自分の好みや希望を口にしづらかったことだろう。
「……お二人の見立てならきっと、間違いないですから。私、今まで服装に頓着してこなかったので、自分では選びきれませんでしたし。それに、こんな素晴らしいお洋服、ミスタ・クラウスにお会いしなければ一生着る機会なんて無かったと思います」
そこでようやく、ミス・アメリアが穏やかに微笑んだ。
彼女の微笑みは非常に婉麗としていて、またその丁寧な言葉遣いも相まって、同年代の少女と比較すると妙に大人びて見えた。
そんな彼女を見ていると、余計に今日の列車事故の時の彼女の異様さが際立つような気がした。
「私はともかくミス・レイチェルの見立てはたしかに信頼できる。君が気に入ってくれたのなら何よりだ」
言葉の端々から感じられるミス・アメリアの知性や気品。
それをかなぐり捨ててまで、あそこまで必死に周囲に避難を呼びかけていた彼女の姿。
事態が事態なだけに、そうならざるを得なかったのだろうが。
彼女が事故が起きると知ったのは今朝か遅くとも事故直前だったはずだ。
もっと事前に事態を把握していれば、彼女ならばもっと賢いやり方で避難を呼びかけるか警告していただろう。
事故原因の詳細についてはまだ調査中との発表だった。
そして乗客はおろか駅員も異常に気付いたのは列車が出発してからしばらくしてとの話だ。
では何故列車に乗っていないミス・アメリアが事故の事を予見出来たのか。