第6章 The Lady is Cinderella.
その場がシン、と静まる。
ミスタ・クラウスは一瞬だけ目を見開いて、それから徐々に項垂れていった。
「すまない。少し、調子に乗りすぎてしまったようだ」
「分かっていただけて良かったです」
ミス・レイチェルは、少し不満げなご様子だったけれど、ミスタ・クラウスのお顔をご覧になって、これ以上の商売は無理だと判断されたのか、撤収の準備を始められた。
しばらくして部屋にまたわらわらとたくさんの方が入ってこられたかと思うと、洋服のかかったラックを次々と運び出していった。
「それでは、わたくしはこれで失礼いたします。本日は私共の百貨店をご利用いただき誠に、誠に有難うございました」
よほどの売り上げだったのだろうか。
ミス・レイチェルはやたらと深々とお辞儀をして、今日見た中で一番の笑顔で部屋を出て行かれた。
私は部屋に並んだショッピングバックの数々に、ため息をついた。
「ミス、アメリア」
「はい。なんでしょうミスタ・クラウス」
私の声音を気にしてか、ミスタ・クラウスはおずおずと弁解を始めた。
「その、申し訳なかった。君の意向を聞き入れずに私の考えを押し付けてしまって。しかしだね、君にはどの服も似合っていて、どれか一つ選ぶということが大変に難しく……」
「それはとても嬉しいお言葉ですし、ミスタ・クラウスのお気持ちも大変嬉しく思っております。ですが、人には分相応というものがあります。ミスタ・クラウスにとっては普通のことでも、私にとってはそうではないのです。ここまでお世話になっておいて言えることじゃありませんけれど……ミスタ・クラウス」
呼びかけに、ミスタ・クラウスが緊張した面持ちになる。
まだ私の小言が続くとお思いなのかしら。
そう思ったら、なんだか彼のことを憎めない方にしか思えなくなって、頬がゆるんでしまう。
こんなに大きな身体の、立派な紳士が。
私の言葉ひとつひとつにうろたえる姿が、あまりにも可愛らしかった。
「ミスタ・クラウス。こんな私に、善意の手を差し伸べてくださり、感謝しております。ありがとうございます」
下心も無く心からの善意で、ここまでの事をされたミスタ・クラウスには頭が上がらない。
その気持ちだけは、本物だった。