第6章 The Lady is Cinderella.
私の言葉を聞いたミスタ・クラウスの顔は、一気に晴れやかなものになっていった。
強面なのは変わらないけれど、意外と表情に出やすい方なのかもしれない。
「君にそう言ってもらえて何よりだ」
ふ、とミスタ・クラウスが穏やかな笑みを浮かべる。
エメラルドグリーンの瞳に、心臓がとくんと小さな音をたてた。
「アメリア様、あれこれお着替えなさってお疲れになった事でしょう。休憩を兼ねて、紅茶をお飲みになりませんか?」
ミスタ・ギルベルトが、また穏やかに尋ねてくださった。
そうだった。
後程また、というお話だったのをすっかり忘れてしまっていた。
先ほどお断りした手前、またお断りするのは大変に心苦しい。
けれど、私にも抜き差しならない事情がある。
なんと言って、お断りしたものか……。
視線を泳がせて返答につまる私は、お二人からすれば相当に怪しかったに違いない。
だけど視線を泳がせた先に見つけた振り子時計のおかげで、ひとつだけ体の良いお断りの言葉を思いついた。
「申し訳ありません、お気遣いは大変に嬉しいのですが、家に戻らないと。家の者が心配してしまうので……」
自分が子供だということを最大限に利用した言い訳だった。
家族が心配しているとなれば、このお二人は私を無理に引き留めることはなさらないだろう。
「これは気が回らず、大変申し訳ない。急いでご自宅までお送りしよう」
「では紅茶はまたの機会に振舞いましょう。私は先に行って車を用意して参ります、坊ちゃま」
「ああ、頼む。ギルベルトの淹れる紅茶は絶品だからな。一度君に飲んでほしいものだ」
「ええ……」
またの機会、だなんて。
いえ、そうよね社交辞令に決まっている。
むしろ気を遣っていただいたんだわ。
二度も断るなんて、本当に胃が痛いけれど。
キリキリと痛む胃を抑えつつ、私は部屋を後にした。