第6章 The Lady is Cinderella.
「……分かりました」
「では早速、こちらなどいかがでしょう」
ミス・レイチェルに促されるまま、衝立の向こうに連れて行かれ、あれやこれやとミス・レイチェルが持ってきた洋服に袖を通す。
姿見の前では、私はまるで着せ替え人形で、ミス・レイチェルにされるがままだった。
しばらく、やれここのデザインが流行の形のものだの、この丈が足が綺麗に見えて素敵ですだの、ミス・レイチェルの独壇場だった。
「どうですか?」
美しい笑顔で尋ねてくださるミス・レイチェルに申し訳ないほど、私にはどれも選べなかった。
そもそも弁償も望んでいないし、希望も好みも何もない。
どの服を着せてもあまり芳しくない私の反応に困ったのか、ミス・レイチェルはとうとうミスタ・クラウスを巻き込み始めた。
彼女だってお仕事で来ているのだから、何か売らないと困るのだろう。
「せっかくですから、クラウス様にもご覧になっていただきましょう。殿方の意見も参考になさるとよいかもしれません!」
そうしましょう、とにっこり微笑まれては、何も決められない私は頷かないわけにはいかなかった。
衝立の影から、おそるおそる顔を出す。
「いかがでしょう、クラウス様。この深紅のお色味が、アメリア様の黒髪を一層引き立てていると思われませんか?」
「うむ。大変よく似合っている」
うんうんと、嬉しそうに頷くミスタ・クラウス。
その仕草が可愛らしく思えて、私の口角は自然と上がっていった。
「気に入ったかね?」
「え、ええ……」
「ならばそれをいただこう。他に彼女に似合うものはないだろうかミス・レイチェル。ミス・アメリアも遠慮せずに、気に入ったものは袖を通したまえ」
「いえ、そんな。一着で十分です! このお洋服でさえ私には不相応なものなのに……」
黙っていたら、ミスタ・クラウスは何着も買われてしまいそうだ。
本当はこのお洋服だって、いただくのは恐れ多いのだけれど。
「……駄目かね。私はまだ、君に似合う装いを目にしたいのだが」
うっ……
そんな、そんなしょんぼりとしたお顔をなさるなんて。
なんだろう。
ミスタ・クラウスが醸し出されている、この妙な雰囲気は。
『NO』と言えなくなる、この、妙な迫力は。