第6章 The Lady is Cinderella.
「紅茶はお嫌いでしたか? それでは何か他のお飲み物をご準備いたしましょう。 コーヒー、またはフルーツジュースなどいかがでございましょうか」
ミスタ・ギルベルトは、穏やかにそう尋ねてくださった。
けれど、飲み物の種類が変わろうとも、私はそのどれも口にすることが出来ない。
──対価、無しには。
けれど、そんな事をこのお二人に素直に打ち明けることは、私には出来なかった。
さっきの今だ。
きっと、公爵様になんとしてでも取り入ろうとしている女だと、見られるに決まっている。
紅茶をいただく代わりに『私を抱いてくれ』だなんて、そんな事口が裂けても言えやしない。
「いえ、あの……申し訳ありません。今は、そこまで喉が渇いていなくて。せっかく淹れていただいたのですが……」
罪悪感でいっぱいだ。
ミスタ・ギルベルトのご厚意を、こんな嘘で無下にしてしまうなんて。
私の事を、なんと失礼な人間だろうと、きっとお二人とも思われているに違いない。
そんな風に思われたくはないのに。
だけど、仕方がない。
飲みたくとも、飲めやしないのだから。
「そうでございましたか。ではまた後程お入れいたしましょう」
「……申し訳ありません」
「いいえ、こちらもお伺いをたてずにお出ししてしまいましたから」
ミスタ・ギルベルトの穏やかな表情は変わらずだった。
ミスタ・クラウスも、特段表情を変えられなかった。
こちらの無礼な態度など、微塵も気にされていないようだった。
お二人とも内心ではどう思われているか分からないけれど……。
胃がキリキリと痛くなる。
仕方がないとはいえ、嫌な人間だと思われるのも辛い。
──コンコン。
ノックの音がする。
ミスタ・ギルベルトがすぐにドアの方へ向かう。
「坊ちゃま。外商の方がいらっしゃいました」
「通してくれたまえ」
「どうぞ、お入りください」
ガイショウ?
一体なんの事かしら。
私が不思議に思っていると、ドアの向こうから洋服がたくさんかかったラックが部屋の中に運ばれてきた。
あっという間に部屋の中は、洋服でいっぱいになった。
その服と一緒に部屋に入ってきた赤いスーツを着た女性が、にっこりと微笑むと、ミスタ・クラウスが立ち上がって女性と挨拶を交わす。